過去1年で、暗号資産現物ETFは複数の市場で次々に導入され、暗号資産と従来の金融システムとの連携がより直接的になっている。日本の報道によると、金融庁(FSA)は「投資信託及び投資法人に関する法律」(以下「投信法」)の施行令を改正し、暗号資産を投資信託の投資対象とできる特定資産の範囲に含める方針を示している。FSAは最も早く2026年に法案を国会に提出する見込みだ。もし最終的に可決されれば、暗号資産現物ETF関連商品は2028年頃に日本で上場・取引が実現し、資産規模は数兆円に達し、証券会社や取引所なども付随サービスの提供を促進する可能性がある。一方、昨年4月にFSAが公表した暗号資産制度の見直しに関する検討資料(Examination of the Regulatory Systems Related to Cryptoassets、以下「議論文書」)では、現行法体系下では暗号資産を主要投資対象とするETFは成立し得ないと明言していた。こうした規制議論の継続とともに、FSAの政策志向には新たな変化の兆しも見え始めている。
日本は暗号資産現物ETFの導入を検討:市場の現状、規制の転換と実現への影響を全体像として解説
日本が暗号資産現物ETFの取引推進を目指す動きに着目し、規制に関する議論文書と最近の動向に反映された規制の変化傾向を整理・解説する。
執筆者:FinTax
1 はじめに
過去1年で、暗号資産現物ETFは複数の市場で次々に導入され、暗号資産と従来の金融システムとの連携がより直接的になっている。日本の報道によると、金融庁(FSA)は「投資信託及び投資法人に関する法律」(以下「投信法」)の施行令を改正し、暗号資産を投資信託の投資対象とできる特定資産の範囲に含める方針を示している。FSAは最も早く2026年に法案を国会に提出する見込みだ。もし最終的に可決されれば、暗号資産現物ETF関連商品は2028年頃に日本で上場・取引が実現し、資産規模は数兆円に達し、証券会社や取引所なども付随サービスの提供を促進する可能性がある。一方、昨年4月にFSAが公表した暗号資産制度の見直しに関する検討資料(Examination of the Regulatory Systems Related to Cryptoassets、以下「議論文書」)では、現行法体系下では暗号資産を主要投資対象とするETFは成立し得ないと明言していた。こうした規制議論の継続とともに、FSAの政策志向には新たな変化の兆しも見え始めている。
FSAの態度変化は、日本の現行規制のどの方向性を示しているのか?日本が暗号資産現物ETFの導入に向けて越えるべきハードルは何か、市場の機会と規制のハードルはどのように同時に進化していくのか。本稿では、日本の暗号資産現物ETF導入を出発点に、まずその基本的な仕組みと先物型など他の製品との主な違いを解説し、次に議論文書と最近の動きから見える規制の変遷を整理し、さらに政策の進展が日本の暗号資産市場のエコシステムや金融機関の事業展開、投資者のリスク認識・保護にどのような影響をもたらすかを分析する。
2 暗号資産現物ETFとは何か:概念と種類
2.1 基本概念
ETF(Exchange Traded Funds)は取引所上場の投資信託の一種であり、最も一般的なタイプはファンド形式のETFである。暗号資産現物商品は、法域によって呼称や法的形態が異なる場合もあるが、取引体験や投資者の認知においてETFに近いため、市場では一般的に「暗号資産現物ETF」と呼ばれる。いわゆる暗号資産現物ETFは、通常、実際の暗号資産を底層資産とし、現物資産を通じて価格連動を実現する商品を指す。現物商品は取引や保有の利便性を高める一方で、価格変動や詐欺、市場操作などのリスクを完全に排除するわけではなく、投資者が自己管理のウォレットから取引所内商品へ移行した場合、リスク構造は変化するが、最も直接的な変動要因はやはり価格の変動そのものである。
暗号資産現物ETFを理解するには、これを一連の流れとして捉える必要がある。
第一に対象資産と評価:商品は一般的に現物市場の価格や指定された指数を基準に純資産価値(NAV)を算出する。NAVの計算頻度や価格設定の出所、極端な相場状況下での処理方法は、追跡精度や投資体験に影響を与える。
第二に保管:暗号資産現物ETFの底層資産は、適切な保管体制の下に置かれる必要がある。秘密鍵の管理、コールドストレージの比率、アクセス権限、監査体制などがリスク管理の要となり、これらは通常、規制を受ける信託銀行や保管機関が担う。
第三に申請・償還とアロケーション参加者(Authorized Participant:AP)の仕組み:APは一次市場での申請・償還と二次市場での取引を通じてアービトラージを行い、プレミアム・ディスカウントの収束や流動性に影響を与える。価格変動が激しい局面では、プレミアムや取引摩擦が拡大しやすい。
第四に取引コスト:暗号資産現物ETFの取引には、スプレッドや取引インパクトコスト、税務処理の違いなども考慮される。
2.2 種類:現物、先物、その他
投資分野において、暗号資産を対象とした取引所上場商品は、その主要な保有手段に基づき分類されることが多い。最も一般的なのは現物保有型ETFと先物契約型ETFである。現物ビットコインやイーサリアムのETFは、実際の暗号資産を保有し、その価格に連動させることを目的とする。一方、先物型ETFは、対象暗号資産を基にした先物契約を保有し、その価格変動に追随させる。
現物型ETF(Spot ETF)は、取引所に上場し、アロケーション参加者を通じて新規発行・償還が可能なオープンエンド型の投資信託または類似の取引所取引商品であり、特定の対象資産の価格動向を追跡することを目的とする。これらは、対象資産の現物を直接保有し、信託・保管を行い、その公正価値に基づいて純資産価値(NAV)を算出する。現物ETFは、単一資産を保有する場合と、多資産のバスケットを持つ場合がある。単一資産の現物ETFはBTCやETHなど特定の暗号資産を保有し、多資産バスケット型は指数やポートフォリオルールに従い複数の暗号資産を分散保有し、リスクを低減する。現物ETFは、従来の証券口座体系内で暗号資産の価格動向に連動した投資を望む投資家に適しているが、対象資産の価格変動は依然として純資産価値に直接反映される。
先物型ETFは、暗号資産の先物契約を主要な保有手段とし、公開取引される証券を通じて、ビットコイン先物の価格変動に追随させる。契約の満期やロールオーバーの仕組みから、投資者はロールオーバーによる純資産価値の乖離リスクも考慮する必要がある。現物商品が承認される前から、米国ではProSharesのビットコイン戦略ETFが先行している。
暗号資産関連の取引所上場商品は、保有手段による分類のほかに、追跡対象に基づき単一資産型と指数・バスケット型に分かれる。底層資産の種類では、暗号資産型と産業チェーン株テーマ型に分かれる。レバレッジや逆張り、戦略型は、リターン追求やリバランスの仕組みが複雑な商品であり、日次リセットやパス依存性が高く、適用範囲は限定的である。
表 1 ETF商品分類の視点
3 否定から推進へ:日本の暗号資産規制の態度変化
3.1 市場構造と国際競争の二重の影響
FSAが暗号資産現物ETFに対して示す積極的な兆候は、従来の慎重な姿勢と対照的である。この180度近い態度の変化は、日本国内の暗号資産市場の構造変化と、国際的な競争の促進の両方に起因している。
日本の暗号資産規制は、これまで主に決済性や取引所の適合性、顧客資産管理、価格変動監視などに焦点を当ててきた。2025年以降、日本は一連の政策・法改正を進め、暗号資産を決済手段の域を超え、金融商品として制度化しようとしている。法的地位の面では、FSAは昨年12月10日に、暗号資産の規制を「支払決済法」(PSA)から「金融商品取引法」(FIEA)に移す提案を行い、暗号資産を金融商品として位置付け、証券に近づける方針を示した。税制面でも、昨年末に2026年の税制改正の青写真を公表し、暗号資産の利益に対する課税を、従来の最高55%の総合課税から20%の分離課税へと引き下げる方針を示している。これらの既存・将来の政策変更は、暗号資産の金融商品化の制度的土台を形成し、暗号資産現物ETFの市場導入に向けた土壌を整えている。
次に、国際競争と規制制度の整合性も推進要因となる。米国の現物ビットコイン商品が主流市場に入り、機関投資や規制対応のサービスチェーンが急速に整備されたことは、日本にとっても重要だ。これは単なる投資者向け商品供給の問題にとどまらず、金融センターとしての競争力や資本市場の魅力度に関わる。もし日本が長期的に規制適合商品を提供できなければ、優良な流入資金やサービスの流れは海外に流出し、国内金融機関も規制の枠内で経験を積む機会を失う。
最後に、FSAの議論文書における暗号現物ETFに対する態度は、完全に否定的ではなく、むしろ制度上の実現可能性に課題があるとしつつも、制度や市場環境の変化次第で調整の余地があることを示している。議論文書は、暗号資産の実用面での投資資産としての性質を認め、その制度的整備の必要性を指摘している。具体的には、次の2つの資産カテゴリーに対する規制方針を示す。
1つは、資金調達や実用性を持つユーティリティトークンなどの「ファイナンス性暗号資産」。発行者の情報開示義務や資金用途、プロジェクトの進捗状況の明示が求められる。
もう1つは、BTCやETHのような非ファイナンス性暗号資産。発行主体が特定されにくいため、取引の公平性に規制の重点が置かれる。
3.2 海外の暗号現物ETF規制の比較
世界の経験を見ると、米国、欧州連合(EU)、英国はそれぞれ異なる暗号現物ETFの規制路線を採用している。米国は現物商品を市場に導入しつつ、ルールや開示、監視を強化。EUは制度の枠組みを先行させ、規制の一元化により規制逃れを抑制。英国は長らく零售保護を重視し、高リスク商品へのアクセス制限を行いながら、リスク開示とともに段階的な規制緩和を模索している。これらの特徴を踏まえ、日本は今後、開放と規制のバランスをとる中間的な路線を採る可能性がある。具体的には、適切な情報開示や適合性管理、反詐欺措置を強化しつつ、規制の枠組みを整備していく方向だ。
表 2 世界主要法域の暗号現物ETF規制比較
4 日本の暗号現物ETF導入の影響予測
4.1 日本市場の現状
日本の暗号資産市場は近年拡大傾向にある。2025年7月時点で、国内の暗号取引アカウントは約1320万口座に達し、証券口座に比べ少ないものの、成長余地は大きい。2025年7月の暗号資産保有額は約5兆円に上ったが、9月には市場の変動により約4.9兆円に縮小した。全体としては上昇基調にあり、インフレや所得増加と相まってリスク資産への関心が高まっていることを示す。一方、相談・苦情件数も増加しており、FSAのデータでは2024年第4四半期の暗号関連相談・苦情は1304件と、前四半期を上回る水準だ。規制当局は、適合した取引チャネルの確保とともに、投資者保護や金融安全性の維持に二重の圧力を受けている。
4.2 影響予測:国内市場と投資者
もし日本で暗号資産現物ETFが承認・導入されれば、最も直接的な影響は、日本の暗号投資資金の流入先の変化だ。仮に、従来は取引所で直接売買されていた資金の一部が、証券口座を通じた商品に流れる可能性がある。これにより、国内取引所は零售取引や既存資産の流出に直面する。
伝統的な金融機関にとって、暗号資産現物ETFの実現は、新たな事業展開の機会であると同時に、規制や信用リスクの試金石となる。価格変動の激しい暗号資産の特性を踏まえ、商品が市場に出て急激に下落した場合、リスクの開示や販売過程の適合性、商品と顧客のリスク許容度の整合性が厳しく問われる。特に、詐欺や運営安全性に関する規制の継続的な注視を踏まえ、内部管理能力が、規制の枠組みの中で関連商品を推進する上での重要なハードルとなる。
投資者側では、アジアの資産配分機会を重視するグローバル資産運用会社やファミリーオフィス、ヘッジファンドなどが、日本の暗号資産現物ETFの動向に関心を持つ。日本での導入が実現すれば、規制の枠内で受け入れられる資産運用の入口が増え、資産配分の最適化や情報開示の標準化、信託・保管の規制も整備されるため、より安心して投資できる環境が整うことになる。